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宮崎地方裁判所 昭和56年(ワ)846号 判決 1983年9月26日

原告

塚田マツ

ほか六名

被告

吉田秀義

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告塚田マツに対し、金二九〇万一七三七円、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎に対し、それぞれ金四五万〇三四七円、原告伊藤一恵、同伊藤裕に対し、それぞれ金二二万五一七三円及びこれらに対する昭和五六年一一月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分しその一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告塚田マツに対し、金一二八一万二三九三円、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎に対し、それぞれ金二〇六万二四七八円、原告伊藤一恵、同伊藤裕に対し、それぞれ一〇三万一二三九円及びこれらに対する昭和五六年一一月六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの連帯負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  交通事故の発生

訴外塚田時盛は次の交通事故(以下本件事故という。)により傷害を受け、四三日後に死亡した。

(一) 事故発生日 昭和五六年二月二〇日午前一一時五五分ころ

(二) 発生地 宮崎市大和町六〇番地一先路上

(三) 加害車両 軽貨物自動車(宮崎四〇き一九六一号)

運転者 被告 吉田秀義(以下被告吉田という。)

所有者 被告 株式会社きみや(以下被告会社という。)

(四) 被害車両 自動二輪車(宮崎市さ一三三八号)

運転者 訴外塚田時盛

(五) 事故の態様 訴外塚田が被害車両を運転して道路左側を走行中、これと交差する道路を進行してきた被告吉田運転の加害車両が左側方より衝突した。

(六) 傷害の部位・程度 訴外塚田は本件事故により右硬膜下血腫、顔面挫創の傷害を受け、入院加療し、頭蓋内血腫除去手術(以下本件手術という。)を行なつたが昭和五六年四月四日死亡した。

2  責任原因

(一) 被告吉田の責任原因

被告吉田は自動車運転者として左折する場合、車両をできる限り道路の左側に寄せて徐行し、かつ左後方より接近して来る車両の有無を確認して事故の発生を未然に防止すべき注意義務があるにも拘わらず、これを怠つた過失により本件事故を発生させ、訴外塚田時盛を死亡に至らしめたものであるから民法七〇九条により訴外塚田及び相続人である原告らが本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告会社の責任原因

被告会社は加害車両を所有して加害車両を業務用に使用し、被告吉田をして、自己の営業のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により訴外塚田および相続人である原告らが本件事故により蒙つた損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 事故発生後死亡するまでの損害

(1) 治療費 一七二万一五六〇円

訴外塚田は宮崎市大王町七〇番地所在古賀外科病院(医師古賀知章)に四二日間入院して前記傷害の治療を受けた。

(2) 入院中の雑費 四万二〇〇〇円

入院中の雑費は一日当り一〇〇〇円が相当である。

(3) 慰謝料 五〇万円

右入院期間中の精神的、肉体的苦痛は大きく、これを慰謝するには五〇万円をもつてするのが相当である。

(二) 死亡による損害

(1) 逸失利益

(イ) 賃金の逸失利益 四六四万〇三二八円

訴外塚田は本件事故当時七五歳で、宮崎市別府町三番九号所在宮崎県住宅建設事業協同組合に事務局長として勤務し、一カ月一二万五〇〇〇円、宮崎市源藤町源藤九三〇―二所在宏明産業有限会社に主任として勤務し、一カ月三万円の各収入を得ていたものであるところ、就労可能年数は平均余命が八・二六年であるから、その二分の一である四年間が相当である。

訴外塚田の生活費は収入の三割が妥当であるから、同人の死亡による逸失利益を年別のホフマン式で算出すると次の算式のとおり四六四万〇三二八円となる。

(算式)

(125,000円+30,000円)×12×0.7×3,564=4,640,328円

(ロ) 年金半額の逸失利益 二八四万二四五八円

訴外塚田は本件事故当時、一カ年につき一〇一万五二〇〇円の厚生年金を得ていたものであるが、本件事故による死亡により配偶者たる原告塚田マツに支給される分は半額であるので、これを除いた半額の年金五〇万七六〇〇円を失つた。失う年金にしめる生活費の割合は一割五分と考えるのが相当である。

右年金の逸失利益を年別のホフマン式により算出すると次の算式のとおり二八四万二四五八円となる。

(算式)

507,600円×0.85×6.588=2,842,458円(円未満切捨て)

(2) 慰謝料

(イ) 塚田時盛 一〇〇〇万円

同人は一家の大黒柱であり、勤務先においても事務局長という要職にあり、今後も生命あるかぎり社会に貢献できる立場にあつた。

(ロ) 原告塚田マツ 三〇〇万円

同原告は婚姻期間四三年を経過し、長年心から支えあい信頼していた夫を本件事故によつて失なつた。

(3) 葬式費用 五〇万円

時盛の年齢、親族関係、社会的地位その他諸般の事情を考慮すれば、葬式費用は五〇万円が相当である。

4  損害の填補 一八二万一五六〇円

原告らは被告会社から治療費、入院費として一七二万一五六〇円、葬式費用として一〇万円の各支払を受けた。

5  弁護士費用

被告らが原告に対し、前記損害額を任意に支払わないので、原告らは本件訴訟を原告代理人に委任し、原告塚田マツが五〇万円、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎が各二〇万円、原告伊藤一恵、同伊藤裕が各一〇万円を支払う旨約した。

6  原告らは訴外時盛の前記損害賠償請求金一八六二万四七八六円を、原告塚田マツ二分の一、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎各一〇分の一、原告伊藤一恵、同伊藤裕各二〇分の一の割合で相続した。従つて、相続分は原告塚田マツが九三一万二三九三円、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎が各一八六万二四七八円(円未満切捨て)、原告伊藤一恵、同伊藤裕が各九三万一二三九円(円未満切捨て)である。

7  結論

よつて、被告らに対し、原告塚田マツは前記六の相続分慰謝料及び弁護士費用合計金一二八一万二三九三円、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎は前記相続分と弁護士費用合計各二〇六万二四七八円、原告伊藤一恵、同伊藤裕は前記六の相続分と弁護士費用合計各一〇三万一二三九円ならびにこれらに対する本訴状最終送達の日の翌日である昭和五六年一一月六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1(一)ないし(四)、(六)の各事実は認め、同1(五)の事実は否認する。

同2(一)の事実は否認する。被告吉田は前方注視を怠つていなかつた。訴外時盛に対する頭蓋内血腫手術は成功し、術後経過も良好であつて、同訴外人は本件事故とは全く因果関係のない急性心不全によつて死亡した。

同2(二)の事実中被告会社が加害車両を所有して加害車両を業務用に使用し、被告吉田をして、自己の営業のために運行の用に供していた事実は認めるが、その余は争う。

同3(一)(1)の事実は認め、同3(一)(2)(3)の事実は争う。同3(二)の事実は争う。

同4の事実は認め、同5の事実は不知、同6、7は争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求の原因1(一)ないし(四)、(六)の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様について

右当事者間に争いがない事実、成立に争いのない甲第一ないし第四号証、第五号証の一、二、第六ないし第一二号証によれば以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

被告吉田は昭和五六年二月二〇日午前一一時五五分ころ、宮崎市大和町六〇番地一先道路において軽四輪貨物自動車(宮崎四〇き一九六一号)を運転し、宮脇町方面から青葉町橘ストア方向に向かい時速一〇キロメートルないし一五キロメートルで左折しようとしたが、このような場合自動車運転者としてはあらかじめ左折の合図をし、車両をできる限り道路の左側に寄せて徐行するのみならず、左後方より接近して来る車両の有無を確認して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠たり、約一〇メートル手前で左折の合図をしたが、車両の左側端から約二メートルの距離を保つて前記速度で後方車両の有無を確認することなく左折した過失により、折から車道左端を後方から進行して来た訴外塚田時盛(当時七五歳)の運転する自動二輪車に気づかず、同車の前部に自車左前輪を衝突させ同人を路上に転倒させて同人に右硬膜化血腫、顔面挫創の傷害を負わせた。

以上の事実からすれば被告吉田には民法七〇九条の不法行為責任が認められるが訴外塚田にも被告吉田運転の車両の左折の合図を見落した過失があるのであつて、その過失割合は前記認定事実のもとでは被告吉田六割、訴外塚田四割と認めるのが相当である。

三  本件事故と訴外塚田の死亡との因果関係について

成立に争いのない甲第一四、一五号証、第一六号証の一ないし三、第一七号証の一ないし三六、乙第一号証並びに原告塚田マツ本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二三号証の一ないし七、証人古賀知章の証言によれば以下の事実が認められ、これに反する証拠はない。

訴外塚田は本件事故により右硬膜下血腫、顔面挫創の傷害を受け、直ちに宮崎市大王町七〇番地の古賀外科病院に入院した。右病院の院長古賀知章は右硬膜下血腫が小さく、訴外塚田が高齢だつたため直ちに手術することを見合せ、二週間程右硬膜下血腫の経過をみたが、血腫が小さくなる傾向になかつた為同年三月一〇日頭部を一部切開し、右硬膜下血腫を取り除く手術を行つた。同年四月一日訴外塚田は退院し、自宅へ帰つたが、家の廊下を歩く時は壁を伝い歩きする状態であつた。翌二日の日は訴外塚田は寝たり起きたり、庭に出たりしていたが三日の日は勤務先の事務所へ行き事務の整理をして帰宅した。同日夜一二時ころ訴外塚田が四〇度の熱をだしうなつていたので、翌四日午前中原告塚田マツは同人を古賀外科病院に連れて行つたところ、「膀胱炎から腎盂炎を併発したのではないか」と診断され、二日分の薬を渡され一旦帰宅した。同日午後五時三〇分ころ訴外塚田は急に呼吸困難になり、救急車で古賀外科病院に再度入院したが、病院に到達した時には全身チアノーゼで、人工呼吸、心臓マツサージ等の治療のかいなく同日午後六時一五分同病院で心不全により死亡した。

証人古賀知章の証言、成立に争いのない甲第一三号証、乙第二号証中には「本件事故と訴外塚田の死亡との間には因果関係は無く、訴外塚田は本件事故とは関係の無い心不全により死亡した」との被告主張に添う部分がある。確かに前記認定の経過から判断すれば、訴外塚田が本件事故により死亡したとの高度の蓋然性は認められないというべきであるが、前記認定のとおり訴外塚田は本件事故当時七五歳の高齢であり、本件事故後四〇数日、本件手術後二〇数日して死亡していることから判断すれば、訴外塚田の死亡に本件事故もしくは本件手術が何らの影響をも与えなかつたと断定することも困難である。このような場合本件事故と訴外塚田の死亡との間に因果関係があるとの立証が無いとして原告らの請求を棄却することは損害の公平な分担という点から考えると妥当性を欠くと考えられるので、右観点から本件のような場合因果関係の心証の割合に応じて被告らもその二分の一を負担すべきである。

四  以上の事実によれば請求の原因2(一)の事実が認められるので被告吉田は訴外塚田が本件事故で死亡したことにより蒙つた損害の三割(六割×〇・五)を賠償する義務がある。又被告会社が加害車両を所有して加害車両を業務用に使用し、被告吉田をして、自己の営業のために運行の用に供していた事実は当事者間に争いがないので被告会社も被告吉田と同様の賠償義務がある。

五  損害額の認定

(一)  事故発生後死亡するまでの訴外塚田の蒙つた損害

(1)  治療費 一七二万一五六〇円

右事実は当事者間に争いがない。

(2)  入院中の雑費 四万二〇〇〇円

入院中の雑費は一日あたり一〇〇〇円が相当であり、前記認定のとおり訴外塚田は四二日間入院していたと認められる。

(3)  慰藉料 五〇万円

本件事故の態様、その後の経緯からすれば訴外塚田の右入院期間中の精神的、肉体的苦痛を慰藉するには金五〇万円をもつてするのが相当である。

(二)  死亡による損害

(1)  逸失利益

(イ) 賃金の逸失利益 三三一万四五二〇円

成立に争いのない甲第二〇、二一号証、原告塚田マツ本人尋問の結果によれば、訴外塚田は本件事故当時七五歳で宮崎市別府町三番九号所在宮崎県住宅建設事業協同組合に事務局長として勤務し、一か月一二万五〇〇〇円、宮崎市源藤町源藤九三〇―二所在宏明産業有限会社に主任として勤務し、一か月三万円の各収入を得ていた事実が認められこれに反する証拠はない。訴外塚田の平均余命は八・二六年であるからその二分の一を就労可能年数とし、生活費を収入の五割として同人の死亡による逸失利益をホフマン式で計算すると次のとおりその額は三三一万四五二〇円となる。(125000円+30000円)×12×0.5×3.564=331万4520円

(ロ) 年金半額の逸失利益 一六七万二〇三四円

成立に争いのない甲第二二号証、原告塚田マツ本人尋問の結果によれば訴外塚田は本件事故当時一か年につき一〇一万五二〇〇円の厚生年金を得ていたが本件事故による死亡により半額の年金五〇万七六〇〇円の支給権を失つた事実が認められ、これに反する証拠はない。失つた年金にしめる生活費の割合は五割と考えるのが相当であるから右年金の逸失利益をホフマン方式により計算すると次のとおり一六七万二〇三四円となる。

507600×0.5×6.588=167万2034円

(2)  慰藉料

本件事故の態様、訴外塚田の社会的地位その他本件記録に表れた一切の事情を考慮すれば、訴外塚田の死亡による慰藉料は金一〇〇〇万円、原告塚田マツ慰藉料は金三〇〇万円と認めるのが相当である。

(3)  葬式費用 五〇万円

訴外塚田の年齢、社会的地位その他本件記録に表れた一切の事情を考慮すれば葬式費用は金五〇万円が相当である。

六  請求の原因4の事実は当事者間に争いがなく、本件事故の態様本件訴訟の難易等諸般の事情を考慮すれば、原告ら主張の弁護士費用はその二分の一を相当として認めることができる。成立に争いのない甲第一八、一九号証によれば原告らが訴外塚田の相続人である事実が認められ、これに反する証拠はない。

七  結論

以上の理由によれば本訴請求は本件損害賠償請求金のうち被告らに対し、原告塚田マツは訴外塚田が蒙つた損害額の三割から填補された額を引いた額の二分の一に自己の慰藉料の三割及び弁護士費用合計金二九〇万一七三七円、原告瀬々芳枝、同塩永治子、同乙守紀美子、同塚田八郎は訴外塚田が蒙つた損害額の三割から填補された額を引いた額の一〇分の一及び弁護士費用合計金四五万〇三四七円、原告伊藤一恵、同伊藤裕は訴外塚田が蒙つた損害額の三割から填補された額を引いた額の二〇分の一及び各弁護士費用合計金二二万五一七三円ならびにこれらに対する訴状最終送達の日の翌日である昭和五六年一一月六日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 有満俊昭)

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